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僕とバッハ



「音楽の父」と言われるJ.S.バッハと出会って30年程経つ。
小学生当時、図書館で「バッハ」という伝記を何度も読み、さらにその 本の一番後ろに書かれていたバッハの作品一覧という所をずっと眺めていたような少年だった。
『コーヒー・カンタータ』『ブランデンブルグ協奏曲』『マタイ受難曲』『無伴奏チェロ組曲』・・・・etc
そんな曲名から勝手にどんな曲かを妄想しては、いつか聴きたいと思い、お小遣いがたまるとレコードを買って聴いた。
小学生で『マタイ受難曲』を聴くとは、まあなんと早熟で聡明な天才少 年かと思われる方もいらっしゃるかもしれない。
が、どっこい、ドラえもんや天才バカボン等の漫画を読み過ぎて、ただただ視力の悪い、熱烈な中日ドラゴンズファンの野球少年だった。
でも、毎朝ブランデンブルグ協奏曲を聴いてから学校へ行く程、バッハが大好きだった。


音楽大学の入試には必ずバッハの無伴奏チェロ組曲を弾かなくてはならない。
大学に入ってからの試験においても、必ずバッハは課題曲として君臨していた。
さらにはコンクール、オーディション、海外の講習会と、いつでもバッハの無伴奏チェロ組曲は課題曲として僕の目の前に立ちはだかり、歳を重ねるごとにバッハという壁はどんどん高くなっていった。
好きだと言えなくなっていた時もあった。
その壁を越えようと飛んだり跳ねたり、壁に穴をあけたりの30代が終わったところで、壁は越えられないと悟った。
いや、超えようとするものではないと思った。兎に角向き合って対話をする事だと。そして続ける事だと。
今はひたすらあの素晴らしい楽曲との対話を試みては毎日が終わっていっている。


そんな僕は、3月23日の神戸を皮切りに全国12カ所での無伴奏チェロ組曲全曲ツアーの旅に出る。
すべて一人舞台とはいえ、バッハと一緒の旅という事がなにか嬉しい。
10年前に亡くなられた師匠に、昔質問した事がある。「バッハの最高の演奏というのは、いったいどんな演奏なんですか?」 と。
師匠は大好きだったコーヒーを飲みながら、また愛してやまなかったタバコをふかしながらこうおっしゃった。
「多分君より先にバッハに会えるだろうから、聞いておくよ」と。

今頃聞いて下さっているのかもしれないが、師匠からの連絡はまだない。


2007年3月 Hiroyasu

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Posted by staff@2007/6/28 木曜日19:22:07